Bringing Storybook Living to Life.

朝葵(Asaki):おうちと暮らしをこよなく愛する30代女性。個人自営業で完全在宅生活。文章を書く、絵を描く、モノを作ることが趣味。夫と2人暮らし。2024年初夏からYouTubeチャンネル「Morning Mallow」を運営しています。
暮らしに興味をもったきっかけは”魔女の庭”
幼いころ、自宅から徒歩10分程度の場所に母方の祖父母の家があり、私はよく遊びに行っていました。
西を向く玄関前には大きな庭が広がり、イチイやバラ、ナツハゼ、ツユクサ、エンレイソウ、ムスカリ、木瓜、カウスリップ、レンテンローズ、ノウゼンカズラ、フロックス、モナルダ、紫陽花など、数え切れないほどの草花が咲いていたのを覚えています。
家の南側にまわると、もうひとつ小さめの庭につながっていて、そこには私が産まれた年に植えられた梅の木や、ルバーブ、ミニトマトなどが育っていました。
収穫されたものは、そのまま食卓に並んだり、調理して食べていたのですが、なかでも私が好きだったのがルバーブのジャム。赤いとはいえ野菜がジャムになるなんて、子どもの頃はちょっと信じられなかったけど、これが本当においしくて。今でも祖母はルバーブジャムを手作りして送ってくれるのですが、その甘酸っぱい味はいつも庭の景色を思い出させてくれます。
私は、そんな“魔女の庭”のような場所で、蝶やてんとう虫と遊び、たまに現れる蜂に怯えながら、ぐるぐると庭をまわって過ごしていました。あの頃は、草花や果実がそばにある暮らしを、特別なこととは思わずに過ごしていたんです。
けれど、10代の終わりに上京し、庭のない場所で暮らすようになってから、あの日々は決して当たり前ではなかったのだと気づかされました。「庭で育てられたものが食卓にのぼる」ことが、どれほど自分にとって大切だったか……私が”暮らし”に興味をもつようになったのは、きっとこの経験が原点にあるのだと思います。
そして、私がカメラに興味を持ち始める少し前のこと。生活の変化により、祖父母は何十年も暮らしてきた家と土地を離れることになりました。久しぶりに帰省したとき、そこにはすでに別の家が建っていて、魔女の庭はその姿を消していたのでした。
映像として記録すること
暮らしに対する憧れを育ててくれたのは、祖母の庭だけではありません。小さな頃から何度もくり返し観たジブリ映画や、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』、そして幼い頃に読んだ絵本など、さまざまな「作品」からも深く影響を受けています。
たとえば、カンタのおばあちゃんの採れたて野菜、屋根裏部屋の古いストーブで作るキキのパンケーキ。縁側に座りながら頬張る千尋のあんまんに、寸胴鍋でぐつぐつ煮込むシータのシチュー。物語の中なのに身近に感じられるリアルさで、「こんな暮らしがしたい」と思わせてくれるシーンです。
『西の魔女が死んだ』で、主人公のまいがおばあちゃんと一緒に野いちごを摘んでジャムを煮る場面も、ずっと心に残っています。あのシーンは祖母のルバーブジャムと重なり、まるで自分のことのように感じられました。
私は、こうした物語に出てくるような暮らしに惹かれて、できる範囲で現実の中に落とし込もうとしてきました。そうしているうちに、自分なりの「作品」をつくりたくなったんです。昔から絵を描いたり、小説を書いたり、何かをつくることが大好きだったので、これもその延長だと思います。
絵画や写真、映画などの作品には、かならず「構図」があります。小説もまた、ひとつの場面を描くために言葉が選ばれ、配置されているので、ある意味では構図を持っていると言えるかもしれません。私にとってカメラは、暮らしの中に構図を持ち込み、日常を作品に変えてくれる手段です。
私の後悔と夢
私はこれまでの人生で、自分で選択できたことにおいては、それほど後悔を感じることはありませんでした。もちろん、選んだ結果が大失敗だったことは何度もありますが、それがそのまま後悔に結びつくわけではなかった気がします。
それでも、今もふと思い出してしまう後悔はあります。そのひとつが、祖父母の引越しの際に地元に帰らなかったこと。あの頃はちょうど個人での仕事をはじめたばかりで、いただける仕事をなんとか繋ごうと必死でした。地元までは遠く、交通費も高くて、お正月にも帰れない年があったほど。
でも、あの時はそんな言い訳をしていないで、多少の無理をしてでも帰ればよかった。最後にあの庭をまわって、一緒に育った梅の木と祖父母の家にちゃんとお別れをすればよかったと、今も深く後悔しています。
そんなふうに思うからこそ、今ではひとつの夢があります。それは、”魔女の庭”をもう一度つくることです。もう梅の木はないけれど、ただ再現するのではなくて、私なりのかたちであの庭の記憶を受け継いでいきたい。そして、祖母が今でもそうしてくれているように、手づくりのルバーブジャムを誰かと分かち合えたらと思っています。
実現はまだまだ先のことかもしれません。ですが、「Morning Mallow」として続けている日々が、いつかその庭へとつながっていくと信じています。そして、みなさんが動画や写真を見てくださったり、あたたかい言葉をかけてくださること。それが、私の毎日の原動力になっています。本当にいつもありがとうございます。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。どうぞこれからも、Morning Mallowをよろしくお願いします🌻