About

Living Slowly, Journaling Our History.

2019年、フリーランスライターとして忙しい毎日を送っていた私は、仕事のために初心者用の一眼レフカメラを購入しました。それまでほとんど写真を撮る習慣も興味もなかった私にとって、カメラはただの仕事道具でした。

しかし、その年の夏。毎年恒例のジブリ放送をテレビで見ていたときに、登場人物が料理を作るシーンが流れ、ふと「家のことや暮らしを映像で記録したい」と思い立ちました。

私はジブリ作品の中で、とくに日常生活のシーンが大好きです。野菜を茹でる、お茶を注ぐ、床を磨く。そんな何気ない暮らしのひとコマは、彼女たちの生活が物語の外でも続いていることを感じさせてくれるのです。

同時に、あの丁寧でリアルな描写は「もしかしたら私も映画のように心地よい暮らしができるのではないか?」と希望を与えてくれました。

けれど、真似してパンケーキを焼いて食べてみても、何かが違うと感じてしまいます。ジブリの登場人物たちの暮らしは生き生きとして見えるのに、どうしてでしょうか。もちろん、美しいアニメーションの力は大きいです。ただしそれに加えて、私自身に小さな喜びを感じる余裕がなかったことも原因だったでしょう。

「残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます」

レイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』でこのように綴り、自然の中での気づきの大切さを説いています。人間の日常生活もまた自然の一部。私はまさしくセンス・オブ・ワンダーを失っていたのだと感じました。

自分の暮らしを大切にしたい。そして、日常にある小さな喜びを映像として記録したい。

私はそこから5年の月日をかけて、時間に追われず、安心できる生活を整えるために努力しました。私生活では夜眠れないほど精神的につらい時期もありましたが、夫に支えてもらいながら前を向き、少しずつ写真や動画について学びました。カメラは私の生活の一部となり、今ではなくてはならない存在です。

そして、2024年6月、私たちはようやく新しい暮らしを始めました。もっと早く始められていたらと悔やむ日もあるし、これからまたすぐに生活が変わるかもしれないけど、「ゆっくり暮らして記録する」という基盤はあの夏から揺らいでいません。朝が来ることをうれしいと思えるのはいつぶりでしょうか。

私たちの動画が、見てくれた誰かにとってほんのわずかでも幸せな暮らしへの追い風となればうれしいです。

June 1, 2024 Asaki